闇より闇へ。
 現れたは黒い影。全身黒タイツの姿に、ニョキリと伸びた黒い触覚、その下には顔半分を埋めるほどの満面の笑顔がたたえられている。そう、まごうことなき「俺様」だ!
「ハーヒフーヘホー!」
 黒い影はふところから一つの瓶を取り出した。その中には、数え切れないほどのカビの化身、かびるんるん達がうごめいている。
「これさえあれば、あのにっくきアンパンマンもいちころだもんねー」
「そんなことはどうでもいーの。早くみんなを困らせてやらなくちゃ」
全身赤タイツの美少女が「はやくぅ!」と急き立てる。
「まっかせっなさーいっ」
 カポリと瓶の蓋を開け、村に通じる川に流し込む。やがて時間をおいて、カビたちは大繁殖して村に襲いかかった。村は大パニック。逃げまどう村人達を空中から楽しげに眺める二人組。泣き叫ぶカバお君。そう、子供達の給食もカビてしまって食べられなくなってしまったのだ。
 それを頼まれもしていないのにパトロール中の"彼"が見つけて叫んだ。
「みんな、どうしたんだい?――なんてことだ…そうか、これはバイキンマンの仕業だな!」
 アンパンマン即座に断定!!
「見つけたぞ、バイキンマン。みんなが心待ちにしている給食を台無しにしてしまうなんて許せないぞ」
 許せなかったらどうするんですか、アンパンマン。
「アーンパーンチ!!」
 速攻、暴力!
 見事にヒットするものの、バイキンマンは不幸なことに空の彼方に吹っ飛ばされはしなかった。
「逃がさねぇぞ!」
 現れたはカレーパンマン。しょくぱんまんもやってきた。バイキンマンは瞬く間に取り囲まれてしまう。

 やがて、アンパンマン一党に多勢に無勢でメタメタのギタギタにバイキンマンがされるころ――
「バイキンマンって馬鹿ねぇ。しょくぱんまん様に勝てるわけないじゃない。さぁて飽きたから、おうちに帰ってお昼寝しようっと」
 バイキンマンを焚きつけた張本人は、悠々と帰路についていた。 
 
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 他人に自分の頭をかじらせる設定とか、やなせ先生って本当に凄いと思う。

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