(例文)「マヴァール年代記2より」
 アンジェリナは跳んだ。殺到する騎馬を避けて後方に跳んだのではない。上に跳んだのだ。跳ぶと同時に剣をひらめかせる。
 剣光に血光がつづいた。アンジェリナの腕に、強い手応えが伝わってきた。剣をつかんだままの腕が、噴血の軌道に乗って宙を飛び、剣客の口から絶叫がほとばしった。

 過去の田中先生の文章は、一口で流麗です。長文になってもスラスラと読め、疲れないのですね。代表作の銀河英雄伝説を連載リアルタイムで読みましたが、当時こんな面白いエンターテイメント小説は他にないと思いました。それが、ぬりかべが小学校3年生くらいの頃でしょうか。小学生で理解できたわけですから、素晴らしく分かりの良い文章だったということです。
 しかし、最近は田中先生、不調です。
 不調というか、なんというか、もう駄目だという感じです。アルスラーン戦記を現在も連載中で数年ごとに刊行されていますが、それを順を追って読んでいくと凋落というか、衰弱ぶりがありありと分かります。細かい説明ははぶきますが、要するに面白くないんです。

 田中先生の悪口や愚痴は言い始めたらキリがないというのは、同好のファン成らずとも分かって頂けると思いますが、――いいところ、このへんにして。
 例文をいきます。もう一度読んでみて下さい。

(例文)「マヴァール年代記2より」
 アンジェリナは跳んだ。殺到する騎馬を避けて後方に跳んだのではない。上に跳んだのだ。跳ぶと同時に剣をひらめかせる。
 剣光に血光がつづいた。アンジェリナの腕に、強い手応えが伝わってきた。剣をつかんだままの腕が、噴血の軌道に乗って宙を飛び、剣客の口から絶叫がほとばしった。

 文書を分解、分析すると――
 第1段落 第1文 10音 過去形
      第2文 25音 現在形 否定形
      第3文  8音 現在形
      第4文 16音 現在形
 第2段落 第5文 15音 過去形
      第6文 24音 過去形
      第7文 51音 過去形

 第2段落のみに注目すると、15音→24音→51音と増加しています。これは前回に説明した文章のリズムがとられているということですが、よく見ると、第1段落の第3文からすでに増加傾向にあります。
 そうです。実は、8音→16音→15音→24音→51音の5連コンボなのです。
 しかし、そうなると、第2文の25音がいかにも奇妙です。
 なぜ、ここに、25音とっているのか? 言い換えて言えば、なぜ第1段落の途中からリズムのコンボが始まっているのか。
 文章のリズムを壊すくらいなら、段落替えを行ったり、文章の組み替えを行うべきところでしょう。なぜか?
 それは、ここで物語の流れが変わっているからです。第2文で流れを変えて、変わったところに5連コンボ(第3文〜第7文)をぶつけているのですね。しかし、第一段落の第3文と第4文は現在形をとっており、第5文以降第2段落全て過去形で、綺麗な形の5連コンボとは言い難いです。変則的というか、第2段落の3連コンボにうまく繋げるために、第3文と第4文はテンポを合わせているだけと言った方が正確かもしれません。
 第2文で、どう物語の流れが変わったかというと――

 第2文 殺到する騎馬を避けて後方に跳んだのではない。

 この第2文を皮切りにアンジェリナは反撃に転じます。簡潔に言うと、跳んで、斬って、敵の腕を切り落とすのです。
 だから、ここから反撃に転じますよ〜というのを読む人に分かるようにするために、第2文はやや文章が長いのだと思います。さらに否定形で、加えて現在形なのもそのためです。文章に特徴づけて、意味をとらえるよりも早く、リズムで場面転換を分かるようにしているのですね。

 第1文   アンジェリナは跳んだ。
 第2文(改)しかし、殺到する騎馬を避けて後方に跳ぶほどアンジェリナは      愚かではない。  

 上の文章は、ぬりかべ的にもっと強調してみた場合です。使い方によっては、読む人に登場人物のことを理解してもらう肝の文章になりえます。ちなみに、物語ではアンジェリナはかなり好戦的なお姫様ですから、「愚かではない」というのは間違った導き方かもしれません。好戦的な人だというのをアピールするためには――

 第1文   アンジェリナは跳んだ。
 第2文(改)しかし、殺到する騎馬を避けて後方に跳ぶほどアンジェリナは      臆病ではない。

 こんなものですかね。勇気のある人だなぁというのは伝わると思います。

 まとめると以下のような感じでしょうか。

 (例文)「マヴァール年代記2より」
 アンジェリナは跳んだ。殺到する騎馬を避けて後方に跳んだのではない(否定形、過去形、文章量増加で場面転換を示唆)。上に跳んだのだ。跳ぶと同時に剣をひらめかせる(コンボに繋ぐためのテンポ合わせ、以下に3連コンボが続く)。
 剣光に血光がつづいた。アンジェリナの腕に、強い手応えが伝わってきた。剣をつかんだままの腕が、噴血の軌道に乗って宙を飛び、剣客の口から絶叫がほとばしった。

ってなところで。

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