年賀状だけのやりとりをしていた高校時代の友人からメールがきた。
当時、ものすごい可愛い系の美人さんだった彼女は、彼氏と別れそうになる頃から私と仲良くなり、主に「これだから男は…(共通項は父親が金にだらしない)」ネタで盛り上がった仲である。
「仕事でそちらに用事があるんですが、ついでにベビーちゃんに会いたいです」

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彼女は看護師さん。
今の私のような人間には何とも心強い職業である。
「会おう、我が家に来てベビーちゃんを抱っこしてあげて」
二つ返事で「Yes」と言うかと思いきや、彼女は昼食を理由にまずは外で会いたいと言う。「昼食のあとにベビーちゃんに会えればいいから」
それならば、とホテルで待ち合わせすることに。
外に連れて行けない息子を妹に預け、ロビーで待つこと15分。
どんな会話をして楽しもうかと考えていると、エレガントな装いの女性が近付いてきた。
私たちの年代が着用するには少し古めかしいデザインと色づかい――ではあるものの、きっちり感漂わせる清潔な印象。それが彼女であった。
「久しぶりー!」と声をかける。
「変わらないね」と微笑む彼女。
「仕事終わったの?」
と問いかけると、はにかむように肯いて彼女はホテルの外を見ている。
「ね、ごはんどうしよっか。ホテルで食べる?」
「あのね、実は、連れがいるの」
ふと彼女の目線を辿ってみると、ホテルの外にスーツケースを持ったエレガントな装いのおばさまが一人………

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はい、カンの良い方はもう気付かれたでしょうね(苦笑)

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「この方、私の勤めている病院で看護主任されてた方で、今は美と健康のアドバイザーをなさっているの。何でも相談出来るのよ」
見れば年齢の割にはお綺麗で、背筋もピンと伸びている。
「初めまして、私も御一緒してよろしいかしら」
嫌とは言わせません的な強引さで、ズンズンとホテルの喫茶店へと進み行く彼女。
友人をちらりと見ると、こちらは相変わらず微笑みを絶やさない。
…ちょっと待て、お嬢さん「仕事」って副業のことですか?
エレガントな二人に対し、めっちゃくちゃカジュアルというか普段着な私。
あれ? これって、あれ? もしかしてあれですか???
うわ、やばー。見栄でもはってスーツでも着てくりゃ良かったぜ!
きっとこのおばさまと友人は私の足元見てるに違いない…

***

「昼食でも」のはずなのに、二人はコーヒーしか頼まず、私が一方的に食べ、おばさまが一方的に話す展開に。
彼女は「美と健康のアドバイザー」という肩書きで、浄水器と補整下着、そしてサプリメントを販売している人らしい。
「急に同席しちゃって申し訳ないわぁ、でも話だけでも御紹介したくって。きっとあなたの力になるから」
もぐもぐとチキン南蛮を口に運びながら説明を聞く私。
話の端々に「未熟児ちゃんを産んで大変だったろうけど、これからのお子さんを全力で守ればいいんだから」という言葉が出てくる。

うあぁ、うざぁ…つか余計なお世話だっつーの。

***

こういう商法に出くわしたとき、どんな態度をとるかって案外難しいものである。
「NO!」と強く言うのが恐らく正しい解だと思うのだが、私はそれが出来ずにいた。
――もちろん購入する意思もないし、騙し討ちのようなやり方は大嫌いである。
だけど、話しているのはおばさまで、友人は私の隣でこっくりこっくりと肯いているだけなのだ。心底信じ切っている彼女を見て、何となく「夢を醒ましちゃ悪いよね」という気持ちになった。もうこの時点で友達としては失格だ…

「ほんと素晴らしい商品ですよね、あなた方を見ているだけで商品の効果やそれがあなた方の生きる自信に繋がっていることが良く分かるわ!」
満面の笑顔で応対することにしたのである。
この余裕には実は裏がある。
彼女たちが薦める商品って、通販番組とか雑誌広告とか見てれば「セールストーク」とやらが予想できるものばかり。
知っていることはこちらから進んで「こういう効果があるんですよね」「今の医学でもそれは証明されていると聞いてますよ」と言い、知らないことは「とても勉強になりますわ」「そういう説もあるんですね」と答える。
「結局は商品を信じて続けられるかどうかなのだもの、信じられたあなた方はまさに勝ち組だし、信じて使い続けたというだけでも幸せを享受できる権利を手に入れたって言えますよ」
でもね。
「私はそういう一つのことを熱心に信じられるような綺麗な人間じゃない、そう、ほんとつまらない人間なの、ごめんなさいね。あなたが薦める商品がどんなに素晴らしいかというのはちゃんと分かっているから、もっと自信を持って他の方々に伝えてあげてくださいね」

***

まぁ二時間こんな感じで過ぎていき、結局ベビーちゃんには会わせず仕舞いで私は逃げ帰ってきたわけで。

思い起こせば友人と交わした会話は「私もこの商品で痩せた」「ちょっと頑張って浄水器買ってみた」とか…うーん、何か腹が立つぞ。
結局彼女はおばさまの紹介する商品にはまりこみ、ライフスタイルからファッションセンスまで全ておばさまに頼りっきりになっちゃったようで、それが何とも情けないやらむかつくやら…もうあの頃のキミじゃないんだねっつーか…
悶々とした気持ちのまま、再び友人からメールが入る。
「突然でびっくりしたでしょう? でもお役にたてればと思って…」

穏やかな解法を望んだのは私自身であったものの、メールを見た瞬間に「あぁ、人間関係ぶっ壊してくりゃ良かった…」と思う複雑な乙女心(そうなのか?)

そういうわけで、もぞはこの度、彼女との友情度を思いっきり下げました。
メールも返信してません。
あれだけ褒め殺しておいて無視するなんて、自分でも呆れるほどの変節っぷりなんですが、なんかもう面倒くさ(略)

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